2013年1月21日月曜日

『中国人がタブーにする中国経済の真実』:環球時報と尖閣問題




●『中国人がタブーにする中国経済の真実』



石]: 
 ネットでいろいろな人の不満が集約され、それが中国政府に集中すれば、革命前夜的様相を呈します。
 その雰囲気の中にあっては、政府はユーザーを強権的に力では統制しない。
 というより「できない」といっていい。
 おそらく政府は、ネットユーザーたちを誘導しようとするでしょう。
 それが政府にとっては、一番やりやすい方法だからです。
 どこへ誘導するかというと、やはり外交問題でしょう。
 別の大義名分をあげて、ネットユーザーの愛国心やナショナリズムに火をつけるのです。
 これはネットの世界のみにとどまらない話です。
 中国の政治、社会、経済は、いろいろな意味で行き詰まっています。
 経済では、いずれバブルが崩壊します。
 すでに崩壊は始まっています。
 すべてが行き詰まってくれば、エリートから庶民まで不満を抱えることになり、不安にさらされることになる。
 不満と不安が拡大していくと、中国社会はさらに窮してきます。
 そうなったとき共産党は、国内の不満をそらすために、本格的に対外強攻策に出る可能性がある。 
 さてその意味で中国国内の新聞『環球時報』の報道が気になります。 
 『環球時報』は、連日のように戦争を煽る記事を掲載しています。
 福島さんは『環球時報』について、どう見ていますか。
福島]:
 正直言ってあの新聞は、大衆路線まっしぐら新聞です。 
 一部1.2元(約160円)の安さで大衆紙の地位を築いている。
 発行部数は「180~200万部」。
 これほど成功している新聞は、世界でも珍しい。
 中国最大手の『人民日報』は公称300万部(海外版を含む)といわれますが、これはあくまで公称で、実際は「100万部」くらいでしょう。
 『人民日報』は買ったところで、野菜の包み紙くらいにしか使えない。
 それに比べて『環球時報』は、貧しい人が1.2元という、なげなしのお金を払ってでも読みたがる新聞です。
 それは、単純に面白いからです。
 特徴的なのは、軍事的は煽りがある。
 これはこの新聞の編集者も認めていることで、「反日」や台湾問題にからめて戦争を煽るように書き立てると読者が喜ぶのです。
 中国で新聞を読むのは基本的に男性です。
 男性は軍事好きで、戦争の話で盛り上がりがちです。
 そこを『環球時報』は突いているのです。
 『環球時報』は全国紙のなかでも多額の「上納金」を人民日報に支払っている、といわれています。
 『環球時報』は人民日報傘下の新聞といいつつ、実質的には人民日報を養っているのです。
 人民日報は、中国共産党の「党報」です。
 利益がでなくても仕方がないですが、でも売れる新聞も作らねばならない。
 それも、体制の枠内で売れる新聞です。 
 体制批判の新聞は売れますが、それは共産党が許さない。
 汚職はいいネタですが、危険度が高すぎる。
 そこで、勇ましい軍事ネタが出てくる。
 『環球時報』の読者は圧倒的に貧困層が多いです。
 貧しい人ほど中国の国威発揚や軍事強国化が嬉しいのです。
 日本のような一億総中流では「戦争バンザイ!」と煽っても絶対売れません。
 中国では「人民解放軍、海外派兵」という見出しを立てると、それが不満のはけ口になります。
 さらにいうと、日本人とは違い
 中国人は「戦争は悪」とは思っていません。
石]:  
 そこにこそ中国という国の危険性が潜んでいます。
 戦争に対する観念が、日本と中国ではまったく違うのです。
 中国では、戦争は正しいことで、やるべきことなのです。
 中国は行き詰まっており、このままいけば瓦解し、たとえエリートであれ多くの不満を持つようになるでしょう。
 貧困層ではなおさらのことになります。
 そうなったとき、中国共産党は、国民の好戦的感情やナショナリズムに火をつけることになります。
 国民の圧倒的な支持を背景に、対外的な冒険に走る危険があります。
 陸軍の海外派兵は、国際世論の圧力もあり、すぐには無理でしょう。
 しかし、海洋となると違います。
 すでに中国海軍は、勢力拡張に動いています。
 とくに南シナ海においては顕著で、中国は本気で海洋覇権を求めています。
福島]:
 国内の不満を外に向けようとするなら、対外戦争の誘惑に駆られるでしょう。
 けれども、人民解放軍が対外戦争に勝てるほど強いかとなると、疑問符です。
 いますぐに戦争で勝てる実力はなく、これは人民解放軍の幹部も知っています。
 これが、戦争へのブレーキになっています。
 本格的な対外戦争が不可能でも、人民解放軍が強気であることも事実です。
 日本としては、中国人民解放軍が戦争をやりたがっている、という前提にたって考える必要があります。
石]:  
 おっしゃるとおり中国軍には、いますぐ対外戦争に踏み切る実力はないかもしれません。
 しかし、中国軍が急速に巨大化し、軍事力を向上させてきていることは確かです。
 ここ10年20年の凄まじい軍拡のスピードを見るなら、
 中国軍が対外戦争を仕掛ける時期が前倒しになってきている、
という危険性があります。
 実際、南シナ海をめぐってフィリッピン、ベトナムは危機感をつのらせています。
 これに対して『環球時報』あたりは、南シナ海での開戦を煽っています。
 また、軍に関しては、問題がもう一つあります。
 それは、最近の人民解放軍は中国共産党のコントロールを離れて、好き勝手なことをしているように映ることです。
福島]:
  中国共産党は表向きは文民統制をうたっていますが、実のところ人民解放軍にささえられている党なのです。
 人民解放軍という軍事力があるから、共産党は政権を維持できているのです。
 逆にいえば、共産党幹部は軍の人気を得なければ立場を保持できないのです。
 そこから共産党のトップの軍相手の人気取り政策がはじまります。
 軍から要求があれば、膨大な予算を割いて空母建造に回す、国防費を増額する。
 軍を統制するには、これくらいに人気取りはしなくてはならないのです。
 習近平という人物自体、さほどカリスマ的な魅力があるとはいえません。
 軍を把握するには、軍事力を背景とした対外的な成功をおさめるのが最も効果的な方法です。
 なかでもインパクトがあるのが、「中台統一」でしょう。
 続いて「尖閣諸島奪還」です。
 習近平がこれくらいの成功をおさめれば、軍はもちろん、中国人民のカリスマとなれるでしょう。
 中台統一や尖閣奪還が政治家にとって魅力的なのは、戦争をいなくても可能な目があることです。
 強大な軍事力を背景に、
 台湾や日本が自らの国土を差し出してくれるなら、
政治家としては大成功なのです。
 中国の政治家が中台統一や尖閣奪還の誘惑に駆られやすいのは、軍の掌握のためと同時に、比較的やりやすいからです。
福島]:
 南シナ海問題では、過去にベトナムは中国との戦争体験があって強気に出るでしょう。
 アメリカも南シナ海には敏感です。
 相手に本気で戦いを挑まれると、腰が引けてしまうのが解放軍です
 海軍をはじめとして中国軍は強大に見えますが、その実、脆い面がうかがえます。
 というのは、中国軍内部では腐敗が進んでいるからです。
 軍隊内での貧富の格差が非常に大きい。
 しかも、一般社会よりも、人民解放軍内部のほうが、もっとひどい格差になっている。
 軍の幹部はお金持ちで、さまざまな形で利権を得ており、経済活動をしたり、蓄財したりしている。
 かたや、普通の兵士は給与は安く、その差は天地ほど開いている。
 贅沢して資材を貯めこむことに腐心している上官の命令に従って、普通の兵士がおのが命をあずけられるものでしょうか。
 退役軍人は養老問題でしょっちゅう揉めています。
 実際の戦闘で士気が上がるとは思えません。
 加えて
 中国人は、もともと国のために命をかけて戦うタイプではありません。
 人民解放軍の場合は、腐敗によってなおさらそうなっています。
 私腹を肥やして豊かな生活を享受している軍人が、いざ戦争となって自分の命を張れるとは思いません。
 ストイックでない司令官の下で、貧しい兵士が命がけて国のために戦うかというと無理でしょう。

 これからの中国軍の戦争は、兵士が上陸作戦を行い、血を流すというものにはならないでしょう。
 ボタン一つ押せば弾道ミサイルが発射され、一撃で決着するということもありえます。
 ただミサイル戦争にも限界があります。
 弾道ミサイル戦争は世界規模戦争となります。
 世界規模戦争となれば、アメリカが出てくるでしょう。
 アメリカとの戦争は、指導者の頭がおかしくならないかぎりありません。
石]:  
 そうなると中国の選択肢は「恐喝戦争」しかありません。
 中国は「ガチンコ戦争」では勝てない。
 ミサイル戦争でも勝てない。
 そこで戦争を仕掛けるとみせかけて、圧力をかける。
 軍事力を巨大化させて、軍事力をバックに
 「恐喝をしかける」
といった戦争スタイルです。
福島]:
 中国は、実際に武力衝突となったら勝てる見込みはないから、ガチンコでは戦かわないでしょう。
 軍の首脳も「武力衝突をやってはいけない」と考えている。
 だが、巨大な軍事力は、有効な交渉道具になります。
 外交交渉となったとき、中国はどこを狙えばいいか、よく知っています。
 要するに交渉のいちばん下手な国、つまり日本が狙われるのです
 中国の軍事力は強大になっています。
 数だけみれば日本を圧倒しています。
 しかし、中国軍も中国人も日本相手に勝てるとは安心していません。
 いまの中国人は日本を「眠れる獅子」だと思っています。
 日本人が本気になったときを、彼らは内心恐れています。
 もう、たいした国ではないと思いつつも、日本に対する恐れも捨て切れていません。
 日本人自身は、日本のことを「もうダメだ」と思っているところがあります。
 しかし、悲観する日本に対して、中国人は「嘘だろう」と疑っている。
 例えるなら優等生が
 「昨日は勉強してこなかったから、今日のテストが心配だ」
と嘆いているようなもので、たんに嫌味に聞こえる。
 こんな生徒に限って本番ではしっかりと満点をとるわけです。
 世界からみた日本も同じように映っているでしょう。
 技術力一つとっても、いまなを世界最高レベルの分野が数多くあります。
 そんなイメージがあるから、中国も日本に対して強い姿勢になりにくいところがあります。







中国戦闘機、スタンバイへ


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