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JB PRESS Financial Times 2013.02.01(金)
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/37064
ミャンマーが中国西海岸になる?
中国のパイプライン建設が浮き彫りにする争奪戦
(2013年1月31日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
今年5月、中国の地理に興味深いことが起きる。
猛烈な勢いの経済発展が東部沿岸地域の都市に集中してきた大陸規模のこの国が、西海岸という、これまで1度も手にしたことがないものを手にするのだ。
全長800キロのガスパイプラインが、ミャンマー中部を通って、雲南省の省都・昆明とベンガル湾をつなぐ。
来年には同じルートに沿って石油パイプラインが開通する。
道路と鉄道がその後に続く。
もちろん中国は文字通りに、大西洋と太平洋に面する米国の海岸線に匹敵するような2つ目の海岸線を手に入れるわけではない。
だが、中国はそれに次ぐ2番目に良いものを手に入れる。
■太平洋とインド洋へのアクセスを得たい中国
「中国に欠けているのは、中国のカリフォルニア、つまり遠く離れた内陸部の省に海への出口を提供するもう1つの海岸だ」。
作家でミャンマー政府の顧問を務めるタン・ミン・ウ氏はこう言う。
同氏はミャンマーの地政学的重要性に関する著書『Where China Meets India(中国がインドと出会う場所)』で、パインプラインは中国政府の「ツー・オーシャン」政策にとって画期的な出来事だと述べている。
影響力のある米国のジャーナリスト、ロバート・カプラン氏も同様に、世界で3番目に大きな水域であるインド洋でプレゼンスを確立する中国の能力が、中国が世界的な軍事大国になるのか、それとも太平洋に限定された地域大国でとどまるのかを決定すると主張している。
西側諸国は長年、ミャンマー――多くの人が今でもビルマと呼びたがる国――を人権と民主主義というプリズムを通して見てきた。
そこから見えてくるのは、アウン・サン・スー・チー氏がこの国から軍事独裁主義を取り除くのに悪戦苦闘している姿だった。
これは、特にミャンマーの6000万の虐げられた人々にとっては極めて重要な物語だ。
だがそれは、恐らく全く同じくらい重要な話を覆い隠してきた。
すなわち、アジアで最も戦略的に重要な国の1つを巡る争奪戦だ。
インド洋と中国を結ぶパイプラインが生まれることになった経緯を振り返ることには価値がある。
ミャンマーは1990年代に、フランスのトタルが建設したパイプラインを通して海洋ガスの一部をタイに輸送し始めた。
インド、韓国、中国は、より大規模な別のガス田の権益獲得に向けて動き出した。
■中国の「マラッカ・ジレンマ」の解消へ大きな一歩
中国政府は2006年、ミャンマーの人権侵害を非難する国連安全保障理事会の決議に拒否権を発動した。
それから間もなく中国は、雲南省のパイプラインの商談を成立させた。
インド洋に至るこのルートは、退任が近い胡錦濤国家主席が中国の「マラッカ・ジレンマ」と呼んだものを解決する手始めになる。
中国の石油の約 80%は、マレーシアとスマトラ島の間を走る狭いマラッカ海峡を通過している。
ここは今でも事実上、米国海軍が支配している難所だ。
中東から運ばれてくる石油を輸送する新たな石油パイプラインは、マラッカ海峡に対する中国の依存度を3割程度引き下げる。
一方、ガスパインラインの年間輸送能力は120億立法メートルで、中国の現在のガス輸入量の28%に相当する。
ミャンマーにおける中国の影響力は、もっと大きい。
数百万人の華僑がミャンマーに移住しており、あまりに数が多いため、ミャンマー第2の都市マンダレーはまるで中国の開拓地のようだ。
少数民族のワ族に属する領土は事実上中国との国境がないが、ミャンマーからは軍の検問所を通らなければ到達できない。
中国企業は何年もかけて、ミャンマーの鉱山やダムに巨額の投資を行ってきた。
中国政府の影響力があまりに大きくなったため、2010年には当時米国の上院議員だったジム・ウェブ氏が、かつては英領インドの一部だったミャンマーが「中国の省」になる恐れがあると警告した。
中国の支配に対する不安がミャンマーの軍部と米国政府の双方を駆り立てて、妥協に至らせた。
実際、2011年のミャンマーの劇的な開放は、米国のアジアへの旋回と時期が重なった。
■突然のミャンマー開放、最大の要因は中国支配への不安?
結局、突破口が突然開けたのは、民主的な配慮よりも地政学的な配慮の方が決定的な要因だったということになるかもしれない。
何しろミャンマーの軍司令官たちが取引を受け入れる用意があることを示した最初の大きなシグナルは、政治犯の釈放ではなく、中国が資金を提供する総工費36億ドル規模のミッソンダムの建設中止だった。
それ以来、ミャンマーの争奪戦が始まった。
米国と欧州は、これまでのところ主に支援組織や多国籍機関を通じた技術支援の提供によって存在感を高めている。
経済制裁の間も決してこの国を離れなかった日本は即座に関与を強め、63億ドルの債務を一方的に免除した。
多くの人はこれを投資の波の序章だと見ている。
西側の債権国から成るパリクラブも今週、債務協定を結び、新たな資金流入に道を開いた。
欧米企業も日本企業もまだ新たな大型投資は表明していない。
だが日本は、巨大なダウェイ港や南部の工業地帯に関心を持っているかもしれない。
外交分野では、米国が今年、ミャンマーに米国とタイとの合同軍事演習を視察するのを認めることになっている。
中国は守勢に回っている。
ミャンマーは、中国が所有するミャンマー最大のモンユワ銅山における土地の押収や環境破壊の疑いについて調査を行っている。
またミャンマー政府は最近、カチン州の反政府勢力に対する空爆で、中国領にも砲弾を打ち込んで、中国政府を苛立たせる危険を冒している。
■東西を競わせるミャンマー
それでも、ミャンマー政府が中国を見捨てることはないだろう。
東側と西側を対抗させることでミャンマーが得られる利益はとてつもなく大きいからだ。
スー・チー氏でさえ、戦略的に何が重要なのか分かり過ぎるほど分かっている。
「中国はミャンマーの隣国であり、米国は遠く離れているという事実を忘れてはいけない」。
同氏はかつて控え目な言い回しでこう話していた。
スー・チー氏がいつか大統領になるようなことがあれば、地政学的な駆け引きを民主化の駆け引きと同じくらいうまくやるだろうか? その様子を見るのは大変興味深いだろう。
By David Pilling
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ということは、中国はミヤンマーにいいように操られているということになってしまうのだが。